高齢者と眼疾患

生活習慣病のような全身疾患と同様に、眼にも年齢とともに様々な病気が生じてきます。そのような眼疾患の中には、加齢のプロセスとして避けられないもの、年齢が進むことで必ずしもすべての人に発症するわけではないもの、最終的に失明に至る可能性のあるものなど様々です。

加齢の要因は25%が遺伝的に決定され、75%は環境因子に左右されるとされており、普段から食生活や運動の習慣などに気を配ることで、加齢現象の4分の3に自ら働きかけることができると考えられます。様々な病気の発症には加齢の進行が大きな影響を与えるため、健康的に生きるための工夫として、抗加齢(アンチエイジング)に着目した生活が望まれます。

眼の病気の中にも加齢と名のつく疾患がいくつかあり、その中で近年日本でも増えているとされている加齢黄斑変性と呼ばれる病気があります。加齢黄斑変性には大きく萎縮型と滲出型と呼ばれる2つのタイプがあり、それぞれ経過が異なります。欧米人に多い萎縮型加齢黄斑変性は網膜直下の網膜色素上皮内にリポフスチンと呼ばれる老廃物が蓄積することで、網膜細胞の萎縮が進行する疾患で、網膜中央の黄斑部が萎縮してしまうと視力低下が生じます。また、国内で増えている滲出型加齢黄斑変性では、網膜や網膜色素上皮下の脈絡膜に生じた新生血管から出血が生じると著しい視力低下が生じます。日本において滲出型加齢黄斑変性が増加している原因として、食生活の欧米化が指摘されており、普段の食生活に気をつけることが疾患予防につながる可能性があります。

視覚情報は網膜にある視細胞により感知され、複雑な神経細胞のネットワークを経て脳に伝達されます。現在の医療では神経細胞を再生するような治療は実現されておらず、膜や視神経に関わる疾患は予防や早期発見・早期治療が望ましいとされます。

近年は、予防医学の中でも加齢の科学的なプロセスに着目したアンチエイジング医学が注目されるようになり、健康で若々しく人生を送るための様々な知見や情報が報告されています。

視機能が低下する眼疾患

白内障

加齢白内障

年齢とともに眼のレンズにあたる水晶体が混濁してくる状態で、70歳代ではほとんどの人が罹患していると言われています。視力低下やまぶしさ、複視の原因となり、生活に不便が生じる場合は手術を行います。世界の多くの国々では、日本のように白内障の手術を容易には受けられる環境がないため、世界の失明原因のトップは白内障と言われています。

加齢白内障は一部の方のみに生じる病気というよりは、眼の水晶体の加齢変化のため、基本的には進行の度合いや程度が異なるものの誰でも生じる眼の状態と言えます。発症時期が早い場合は、50歳代でも視力低下が生じる方がおられ、通常は40歳代くらいから自覚される手元が見えにくくなる老眼も水晶体の硬化が原因とされ、早期の白内障の変化ととらえることもできます。初期の白内障変化であれば、白内障進行予防の点眼を開始することで見え方が改善する症例も見られ、最近の英国における研究ではビタミンCを多く摂取することで白内障の進行を30%以上遅らせることができたとしています。

診断
細隙灯顕微鏡検査、眼底検査
治療
白内障予防の点眼薬、手術(水晶体再建術)

加齢黄斑変性

網膜中央の黄斑部に萎縮が生じたり(萎縮型加齢黄斑変性)、血管新生による出血(滲出型加齢黄斑変性)で視界の中央が見えなくなる病気です。米国では失明原因の第1位とされ、日本でも食生活の欧米化が進み増加しているとされています。萎縮型には食生活の改善に加えてサプリメントの摂取が推奨され、滲出型では抗VEGF薬の投与や光線力学療法(PDT)が行われます。

診断
眼底検査、OCT、蛍光眼底造影検査
治療
抗VEGF薬の眼内投与、PDT、サプリメント

緑内障

わが国の中途失明原因の第1位で、網膜神経節細胞の喪失により視野欠損と特徴的な視神経乳頭の陥凹拡大を示します。失われた網膜神経節細胞と視野は回復しないため、早期発見・早期治療が望まれます。視野の中心に欠損が及ぶと視力低下が生じてしまいます。治療は点眼薬による眼圧下降が主要な手段で、点眼薬で眼圧がコントロールできない場合は、レーザー治療や手術による眼圧下降を行います。

診断
眼底検査、眼圧検査、隅角検査、OCT、視野検査
治療
眼圧下降の点眼薬、レーザー治療、手術

網膜静脈閉塞症

網膜静脈の閉塞により眼底出血が生じます。部分的に網膜静脈の分枝が閉塞する場合(網膜静脈分枝閉塞症)と、静脈が枝分かれする前の部位が閉塞し網膜全体に出血の広がる網膜中心静脈閉塞症があります。網膜の血流が著しく悪化する虚血型の場合は、網膜光凝固術が必要になります。また、出血が消退後も網膜中央の黄斑部に浮腫が持続することがあり(網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫)、局所のレーザーや抗VEGF薬による治療が行われます。また、一部に自然軽快して視力予後が良好な症例もあり、内服薬の投与で経過観察を行うこともあります。

診断
視力検査、眼底検査、OCT
治療
経過観察、網膜光凝固術、抗VEGF薬の眼内投与

虚血性視神経症(Anterior Ischemic Optic Neuropathy)

血管炎(側頭動脈炎)や高血圧・糖尿病などの生活習慣病に関連して視神経の血管が閉塞・虚血に陥り、突然の視力低下や中心部の視野欠損が生じる病気で、視神経乳頭の出血や浮腫を生じることがあります。眼科的検査に加え、血圧や血液検査などの全身状態のチェックが必要で、血管炎を伴う場合はステロイドの全身投与が行われます。

診断
視力検査、眼底検査、視野検査、OCT、血液検査
治療
経過観察、ステロイドの内服

見え方の質に影響する眼疾患

眼瞼下垂

加齢に伴い上眼瞼が下がり瞳孔の前にかぶさるようになると、上方の視界が妨げられるために、眉毛を過剰に挙上して額の皺が顕著になったり、顎を上げて前方をみるようになったり、眼瞼をご自分の手で持ち上げて物を見るようになるといった症状がでてきます。加齢に伴う眼瞼下垂の原因は、上眼瞼の瞼板につながっている挙筋腱膜の断裂とされており、眼瞼下垂以外に上眼瞼の陥凹が見られるようになります。眼瞼下垂によって日常生活に支障が生じるような場合は、手術の適応になります。

診断
細隙灯顕微鏡検査
治療
眼瞼下垂の手術
老視

老視

眼球にはカメラのオートフォーカス機能のようにピント調節の機能が生来備わっていますが、年齢を重ねると、早い方では30歳代の後半から手元へのピント調節が困難になる場合があります。
それまで近視眼で、手元にピントに合いやすかった方よりは、裸眼でも遠くが良く見えていて、比較的目が良いと思っておられた方のほうが老眼と呼ばれる老視による近見障害の自覚は強いと思われます。

老視の原因と考えられているのは水晶体の加齢に伴う硬化で、水晶体という眼球内のレンズが厚さを変えることでピント調節を行っていたしくみが、レンズが変形しづらくなるために手元にピント調節が出来なくなると考えられています。 対処法としては、読書用の眼鏡を使用したり、レンズの下方に近見用のレンズを組み込んだ遠近両用の眼鏡を使用したりすることで、見えにくさを改善します。また、最近では遠近両用のコンタクトレンズも利用できるようになっています。

診断
視力検査
治療
眼鏡、コンタクトレンズ

結膜弛緩症

体表の皮膚に年齢とともに弛みが生じるのと同様に眼球表面の結膜も年齢が進むと弛緩してくるようです。結膜が弛緩すると本来は下眼瞼の縁と眼球前面の下方部分でつくられていた涙液のたまるスペースを、 弛緩した結膜が占拠するようになり、眼球表面の不快感を訴える方がおられます。

眼表面にある涙液は、目頭にある上下の涙点に向かっていき、涙道に流れていくのですが、結膜弛緩症があるとその流れがスムーズに行われず、停滞して流涙症の原因になり、目の不快感の原因になります。結膜弛緩症が顕著な場合は、手術で弛緩した結膜を切除することもあります。

診断
細隙灯顕微鏡検査、生体染色検査
治療
眼表面保護の点眼薬、抗炎症点眼薬、結膜弛緩症の手術

流涙症・ドライアイ

加齢に伴う涙液の減少や、結膜弛緩症、反応性の涙液の過剰分泌はドライアイや流涙症の症状を呈します。また、涙の通り道である涙道の一部に閉塞が生じると、流涙症や涙道の感染症(涙嚢炎)の原因になります。ドライアイに対しては適切な治療と、流涙症については通水試験等による原因の検索が必要です。明らかな涙道閉鎖症の場合は、シリコンチューブの涙道への留置や涙嚢鼻腔吻合術などの手術が行われることもあります。

診断
細隙灯顕微鏡検査、生体染色検査、涙道通水試験
治療
涙管チューブ挿入術、涙嚢鼻腔吻合術

複視

複視には片眼で見た時に自覚する単眼性の複視と、両眼で見た時に自覚する両眼性の複視があります。単眼性の複視の場合は、乱視や白内障の進行による影響が考えられ、両眼性の複視の場合は、斜視(目の位置のずれ)による影響が考えられます。突然の両眼性の複視が生じた場合は、頭蓋内の病気が原因であることもあり、画像検査等による精査が必要です。

診断
視力検査、屈折検査、細隙灯顕微鏡検査、眼位検査
治療
斜視の治療、白内障の治療

飛蚊症

眼球内の硝子体というゲル状の組織は年齢に伴って変性し、生理的な混濁が生じることがあります。また、硝子体の視神経乳頭や黄斑部からの分離(後部硝子体剥離)が生じると、光視症(光のような物が見える症状)やリング状の混濁(Weiss ringと言います)が見えるようになることがあります。後部硝子体剥離は中高年以降の加齢によって生じる変化の一つですが、一部に硝子体剥離に伴う網膜裂孔や網膜剥離が生じる場合があり、突然飛蚊症や光視症を自覚される場合は、眼科での眼底検査が必要です。

診断
視力検査、眼底検査、OCT
治療
Laservitreolysis(保険適応外)
飛蚊症

全身状態に関連した眼疾患

ヘルペス感染症

高齢になると過去に感染していたヘルペスウイルスが活性化し、帯状疱疹(体の片側の痛み)を生じたり、眼にも角膜炎やぶどう膜炎、網膜炎が生じることがあります。ヘルペスウイルスの網膜への感染は重篤で、ウイルスによる炎症で網膜剥離をきたし失明に至ることがあります。皮膚に帯状疱疹が生じた際は、眼にも症状がないか確認する必要があります。

診断
視力検査、生体染色検査、眼底検査
治療
抗ヘルペス薬の局所・全身投与

網膜動脈閉塞症

網膜の動脈に血栓や塞栓が生じることで動脈が閉塞し、閉塞した部位の網膜組織が虚血になり障害される病気で、視力予後の悪い疾患です。動脈の閉塞が網膜の入口付近で生じる網膜中心動脈閉塞症と、網膜内の動脈の枝の部分が閉塞する網膜動脈分枝閉塞症があります。

診断
視力検査、眼底検査、OCT
治療
眼球マッサージ、眼圧下降治療(発症から間もない場合)

糖尿病網膜症

糖尿病による血管障害により網膜循環が障害され、網膜や硝子体中に出血が生じ、進行すると網膜剥離や血管新生緑内障で失明することがあります。また、糖尿病黄斑浮腫が生じると視力低下の原因になります。また、増殖期に至った糖尿病網膜症に対しては硝子体手術が行われます。

診断
視力検査、眼底検査、蛍光眼底造影検査
治療
網膜光凝固術、抗VEGF薬の眼内投与、手術

癌関連網膜症(Cancer Associated Retinopathy)

本来は悪性黒色腫や肺癌・乳癌といった癌組織に対して生じる免疫反応が、まれに網膜組織に対しても生じると、網膜の特定の細胞層や網膜全体を障害して視機能が著しく障害されることがあります。悪性腫瘍に随伴する症状(Paraneoplastic syndromes)の一つで、眼症状から逆に癌が見つかることもあります。

診断
視力検査、眼底検査、OCT、網膜電図
治療
原因疾患の治療
アンチエイジング

アンチエイジングと眼疾患

眼は全身疾患だけでなく、必然的に加齢によっても様々な影響を受けます。健康で若々しい身体の状態を保つことは、眼疾患から視機能を守ることにつながると考えられます。加齢に影響するのは、遺伝的因子が25%、環境因子が75%とされており、遺伝的な影響は避けられないものの、生活習慣や生活環境に気をつけることで、必要以上の加齢の進行を抑えることができるであろうとされています。

酸化ストレス仮説

体の細胞の中にはミトコンドリアと呼ばれるエネルギー(ATP)を産生するための器官があり、ATPを産生すると同時に酸化ストレスの元になる活性酸素種(ROS: Reactive Oxygen Species)を産生します。ROSは細胞のDNAを傷つけたり、細胞膜の安定性に影響を与えたりすることで細胞障害を生じて種々の疾患や加齢の原因になるとされています。加齢の進行を酸化ストレスによるもの考えるのが酸化ストレス仮説で、健康的で若々しい身体を保つには酸化ストレスと上手に付き合うことが重要です。

カロリー制限仮説

カロリー制限によって加齢の進行を抑えることができるという仮説で、ウイスコンシン大学で行なわれているサルの実験が有名です。自由に食べ物を摂取できる環境に置いたサルと、カロリーを厳しく制限した環境のサルを比較すると、見かけや癌・生活習慣病の発症率に違いが見られ、カロリー制限を行ったサルの方が若々しく健康であったという研究結果が発表されています。カロリー制限を行うとサーチュインという長寿遺伝子が働き、加齢の促進を抑えると考えられています。

サルコペニアと認知症

日本は世界一の長寿国となりましたが、寝たきりになった期間を除く健康的に人生を送った期間を測る健康寿命という指標は平均寿命よりも約10年程度短く、改善の余地があるとされています。生活習慣病を背景とした脳梗塞や、サルコペニアと呼ばれる筋力の低下に伴う転倒など、寝たきりになる原因は様々で、日頃からこれらのリスクを知り健康な生活を送ることが求められると思います。

また、精神面では認知症が社会的にも問題になり、アルツハイマー病のように治療法の研究が進められている疾患もありますが、現時点でそれを克服するには至っていません。最近では、糖尿病と認知症発症の関連が指摘されており、身体面だけでなく精神面でも生活習慣病のリスクを回避することが健康で生き生きとした人生を送るためには重要なことであると思われます。

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