緑内障とは?

視神経を構成する神経節細胞(Retinal Ganglion Cell)が失われていき、視神経乳頭の陥凹拡大と特徴的な視野欠損が生じる病気です。
通常は、中高年以降に見つかってくることが多く、一度欠損した視野は現在の医療では改善せず、徐々に視野欠損が進行し、最終的には失明に至る可能性のある疾患です。

視覚障害に至る原因疾患を調べた過去の調査結果(中江ら)では、1988年に糖尿病網膜症が全体の18.0%で最多でしたが、2004年には緑内障が全体の20.9%となり首位となりました。現在でも緑内障が中途失明の最大の原因疾患と考えられており、失われた視野は改善しないものの、視野進行の抑制は可能であることから、失明予防のために緑内障の早期発見・早期治療が望まれます。

神経節細胞視覚障害の原因

緑内障の種類

開放隅角緑内障閉塞隅角緑内障

緑内障は眼球内の隅角と呼ばれる部位の形態で大きく2つに分けることができます。隅角が開いている場合を「開放隅角緑内障(Open Angle Glaucoma、以下OAG)」、隅角が閉じている場合を「閉塞隅角緑内障(Angle Closure Glaucoma、以下ACG)」と言い、OAGは比較的慢性的な経過をたどりすぐに失明するというわけではないのですが、ACGの一部は急性緑内障発作と呼ばれる急激な眼圧上昇により短期間に失明に至る場合があり注意が必要です。

隅角は眼内の房水が流れ出る場所のため、隅角が形態的に閉塞してしまうと眼圧が上がり、やがて緑内障を発症することになります。
また、隅角の奥には線維柱帯と呼ばれるメッシュ状の流出路があり、その場所の流出抵抗が上がると隅角が開いていても眼圧が上昇し緑内障になると考えられています。過去の研究では、眼圧が高い場合、緑内障による視野障害が進行することがわかっており、眼圧を低く保つことが緑内障の第一の治療です。

正常眼圧緑内障

2000年から2001年にかけて岐阜県の多治見市で行われた緑内障の有病率を調べた日本緑内障学会による「多治見スタディー」では、40歳以上の住民の5%に緑内障が見つかり、そのうちの大部分(3.6%)が眼圧の値が21mmHgを超えない正常眼圧緑内障であるとの結果が報告されました。
また、有病率3.6%の正常眼圧緑内障のうち、それまで診断されていなかった潜在患者は9割以上にのぼり、緑内障による視野障害がかなり進行するまでは自覚されないことから、緑内障の早期発見の重要性が再認識されました。

緑内障

緑内障の診断

緑内障の診断は、眼科受診時の眼底検査や、健康診断の際の眼底写真が端緒となります。視神経乳頭所見から緑内障視神経症が疑われた場合、画像による視神経乳頭の形状解析、視野検査、隅角検査、眼圧検査を経て診断がなされます。

最近は視神経乳頭の形状も眼底写真だけではなく、光干渉断層計(Optical Coherence Tomography、以下OCT)を用いた定量的な解析が行われるようになり、より客観的で精密な診断が可能になってきました。緑内障で視機能上問題となるのは視野障害で、視野の状態を調べるために視野検査が行われます。
近年では緑内障診療の視野検査は自動化された静的量的視野の測定(SAP: Standard Automated Perimetry、以下SAP)が主流となり、実用的な中央部分の視野に関して網膜の光に対する感度の閾値を10分程度で測定することが出来ます。 また近年の研究で、OCTから得られる視神経乳頭周囲の網膜神経線維層の厚さと視野欠損の場所・程度が相関することがわかっており、緑内障の診断に関してはOCTによる視神経の形状とSAPによる視機能の対応が重要になっています。

高眼圧症・緑内障疑いと、前視野緑内障

高眼圧症≠緑内障

以前は眼圧が21mmHgを超えると緑内障になると言われたこともあり、眼圧が緑内障発症の危険因子であることは疑いがなく、高眼圧症の方は定期的な眼科診療を受けていただく必要があります。ただ、「高眼圧症=緑内障」なのではなく、緑内障と診断するには緑内障視神経症があるか、視野欠損が生じているかを確認する必要があります。また、眼圧が正常だからといって緑内障ではないとは言い切れず、日本人の多くは正常眼圧緑内障であることを考えると、視神経乳頭所見が緑内障視神経症を疑うきっかけになります。

進行した緑内障の場合、視野障害に伴って視神経乳頭の陥凹が拡大しているため、診断に苦慮することはないのですが、早期の緑内障の場合は診断に苦慮する場合があります。視野検査を行っても明らかな視野欠損が見られないような場合は、眼底所見とOCTによる視神経乳頭の形状解析の結果を合わせて緑内障疑いに留まる場合があります。緑内障が年齢とともに発症してくる病気であることを考えると、そのような場合も定期的な視野検査と眼圧検査が望まれます。

緑内障と診断されるのは、視神経乳頭所見と視野所見が一致する場合ですが、視神経の形態の変化と視野の変化が生じる間には数年のタイムラグがあるとされており、視神経乳頭の所見が明らかに緑内障視神経症であっても視野検査は正常という前視野緑内障(Pre-perimetric glaucoma)という状態があることが知られるようになりました。 前視野緑内障の場合は、治療を開始するか否かが問題となりますが、眼圧が高い・家族に緑内障の方がおられるなど、緑内障発症の危険因子がある場合は早期の治療開始が勧められます。

緑内障の早期発見・早期治療の意義

緑内障は網膜神経節細胞(Retinal Ganglion Cell)が徐々に失われていく病気で、失われた網膜神経節細胞を再生する治療は現在の医療では実現できていません。視野欠損の進行を抑制するには眼圧下降が有効であることが示されており、緑内障視神経症と診断されれば、現在はプロスタグランジン製剤をはじめとする眼圧下降の点眼薬を開始することになります。視野障害は徐々には進行するため、早期に治療を開始することで生きている間に失明に至るリスクを回避することができると考えられます。

緑内障の有病率が5%ということは、学生時代1クラス40人学級であったとすると、将来的に2人が緑内障を発症するという頻度となり、決して稀な病気というわけではありません。健康診断や人間ドックで「視神経乳頭陥凹拡大」や「高眼圧症」というような指摘がなされた場合は、緑内障を疑い眼科医の診察を受けることが重要です。

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