糖尿病網膜症・黄斑浮腫の治療
糖尿病網膜症とは?
糖尿病網膜症は、緑内障につぐ中途失明原因の2番目にくる眼疾患で、糖尿病による3大合併症(網膜症・腎症・神経障害)の一つです。
糖尿病で血糖値のコントロールが不良の場合、その程度や期間に応じて網膜症が発症してくるとされています。
糖尿病網膜症に対する眼科的な治療として網膜光凝固術があり、一定程度以上の重症度に至った場合に治療が必要となります。
糖尿病網膜症は重症度に応じて、大きく非増殖性の糖尿病網膜症と増殖性の糖尿病網膜症があります。
過去に行われた研究では、厳格な血糖コントロールが網膜症の発症や進行を抑制し、網膜光凝固術が失明のリスクを50%減少させることが示され、増殖糖尿病網膜症に至るような場合は、網膜光凝固術による治療が必要になってきます。
糖尿病網膜症の眼底所見では、早期には毛細血管瘤や点状出血が見られ、糖尿病による微小血管障害が進行し網膜に虚血が生じてくると、硬性白斑・軟性白斑といった血管からの漏出が生じ、重症な虚血が持続する場合は血管新生を伴う増殖性の変化が生じてきます。
増殖性の変化によって増殖膜が網膜に生じると網膜剥離を生じたり、脆弱な新生血管から出血が生じ、硝子体出血を起こしたりするようになります。
このような一連の失明に至る糖尿病網膜症の進行因子として、VEGF(Vascular Endothelial Growth Factor)の存在が知られ、VEGFは網膜組織の虚血に対する反応として産生されることがわかってきました。重度の非増殖糖尿病網膜症に対して、網膜光凝固術が有効である理由も、虚血になった網膜をレーザーによって間引くことで眼内のVEGF産生を防止するためであると考えられています。
Metabolic memoryとは?
血糖コントロールの状態が糖尿病網膜症の発症に深く関わっており、最近では、血糖のコントロールが不良であった期間と程度を表す"Metabolic memory"という概念が提唱され、糖尿病網膜症が発症していなくとも、血糖コントロールの治療開始まで長期間にわたって高血糖の状態が続いていると、血管への障害が蓄積され、その後に血糖コントロールの治療を受けても糖尿病網膜症が発症し悪化するとされています。
糖尿病は無自覚であることも多く、気づかない間に高血糖が持続している場合があり、すでに糖尿病で治療を受けておられる方はもちろんのこと、新規に糖尿病と診断された方は早めに眼科での眼底検査を受けていただく必要があります。
糖尿病黄斑浮腫とは?
糖尿病黄斑浮腫は、網膜の中央の黄斑部の血管透過性が亢進することにより網膜組織に浮腫が生じる場合で、糖尿病網膜症の重症度とは関係なく生じることがあります。
VEGFには血管透過性を亢進する働きがあることから、高血糖による微小血管障害に加え、網膜虚血によって生じたVEGFが黄斑部付近の微小血管の血管透過性を亢進させ、黄斑浮腫を生じさせると考えられます。
黄斑浮腫は遷延化すると視力低下の原因となるため、治療のために黄斑部局所のレーザー治療や抗VEGF薬の眼内投与が行われます。